昭和に時代には、兵庫県の播磨地方に新空港「播磨空港」を建設する計画がありました。
兵庫県の空港計画と、播磨空港について書かれた『神戸沖・播磨・但馬空港―新しい空の時代へ』という古書を読んだのですが、空港建設について、議論がとても熱かったので紹介したいと思います。
神戸空港・播磨空港・但馬空港の計画
『神戸沖・播磨・但馬空港―新しい空の時代へ』は、1983年に「財団法人21世紀ひょうご創造協会」から発行されたものです。
兵庫県の空港建設に関して、知事や市長、大学教授などの識者らが集まって、各地で空港シンポジウムを開催した内容が、書き起こして収められています。
今から36年前なので、 時代背景でいうと、バブルが始まる数年前といった頃でしょうか。
関西空港の建設がほぼ泉州沖に決定したタイミングで、全国で地方空港の建設議論が活発になっていた頃です。
兵庫県の空港政策とは
当時、兵庫県では小型航空機を用いた「新地域航空輸送システム」を2年に渡り調査研究し、県内航空ネットワークを提唱しています。
航空輸送で先行するアメリカの事例を参考として、バスを利用するように小型航空機で近距離を移動する、県内の輸送ネットワークを想定していました。
本の中では、神戸空港をハブとして、播磨、但馬、丹波、淡路にコミューター空港を建設する計画について議論がされています。
コミューター機とは、定員が40名程度の小型航空機のことです。この機種は離着陸に500~800mの距離が必要なので、約1000mの滑走路を備えた空港の建設を想定していたようです。
およそ100~200kmの移動は、このコミューター機を使用し、県内・近畿に複数の空港を建設し、バスを利用するような感覚で、航空機で移動するという計画があったのだそうです。
播磨空港の熱い議論
シンポジウム全体としては、空港の必要性と兵庫県の計画について、議論がされています。
今回は、姫路市で開催された議論の中で、気になった発言を一部抜粋して紹介したいと思います。
当時の戸谷姫路市長は議論のなかで、播磨および姫路の問題点として、
- 産業構造において、エレクトロニクス産業のシェアが低い
- 東京まで3時間かかるのは、活性化のハンディキャップ
- 市内の南北、東西の道路整備が遅れている
- 姫路城があるが、都市整備、魅力づくりに遅れている
- 人を育てる場、総合大学をもっていない
この5点について述べられています。(※本文より抜粋)
おっしゃる通り、言い得て妙だと思いました。36年前の議論ですが、現在でも解決できていない問題があると思います。
さらに、興味を引いたのは、空港議論について、
なお、姫路市も独自に水上飛行場を構想しています。
また、水陸両用機の開発を新明和工業にお願いしていますが、これについて問題点があれば、お教えいただきたいと思います。
この質問に対しては、後の回答で大学教授に可能性を全否定されていました。
現在では、広島県において観光用として水上飛行機(※せとうちSEAPLANES)が運用されていますが、この時代に実用的な利用を考えているとは、発想が自由だなと思いました。
議論は進んで、家島町長の発言のなかで、
姫路市が大塩地区にローカル空港案を研究しているとは聞いていましたが、本日の播磨空港とはどう関係するのでしょう。
これに対して、戸谷市長は、
姫路市が調査した大塩の空港案というのは、これは固まった案では決してありません。
この案は県との整合性も十分にとれていませんし、いわば一種のケース・スタディだと私は考えています。
大塩に空港を建設する議論があったのですね。姫路市が調査をしたことがあるということでした。
そして、家島町長の発言で、切なく印象的なものがあります。
播磨空港を姫路市内に建設するというような考えはどうかと思います。
海に隔てられた家島の町民は、1時間船に乗って姫路港に到着し、そこから再び車に乗って姫路駅にたどり着くといった状況なのです。
本土の人たちにとっては、空港の位置が少々東に、あるいは西に寄ろうが同じ陸の上、車ですぐ走れるということであまり関係がないと思います。
しかし、私ども家島町民にとっては、船と直結した空港の建設が死活問題となっているのです。
さらに、
いま家島の島々は、播磨や阪神工業地帯の建設のための土砂採石場となって山を削られ、今や見る影もない姿となっています。
そして削りつくされた後は、希少価値のあまりない海洋レジャーランドとしてしか生きる道はないと考えています。
そういう状況ですから、空港の臨海立地、これが家島にとって最後のチャンスだと考えているわけです。ぜひ研究をお願いします。
これ、切ないですね。現在でも、家島諸島では、山を削られたままで、ほったらかしになっていますものね。
また、海洋レジャーランドとしての方向性があったというのは、時代背景もありますが、おもしろい発想だなと思いました。
さいごに戸谷市長の発言で、
最後に、姫路は神戸の衛星都市ではありません。むしろ、神戸と対等な西播磨の中心都市です。
ところが、国の方では一県一国立大学だ、あるいは一県一FM局だというような議論がありまして、しかも一つだから神戸にしかできないんだ、という考え方が根強いように思われますので、この点はぜひ打破していただき、ぜひテクノポリスと新地域空輸システムとの検討と推進をお願いしたいと思います。
おっしゃる通りです。FM局はできましたが、姫路市および播磨には、足りていないインフラがあると思います。
播磨空港の場所
今回は、議論のなかで印象に残った箇所を紹介しました。
この本を読んでいると、当時の方々は空港インフラの必要性を強く感じていたのが、よく読み取れます。
その後、兵庫県の新航空プランは実現に至らず、神戸空港と但馬空港の建設が実現しました。
姫路では広峰山エリアに2000mの滑走路を持つ播磨空港計画が出来上がるも、住民の反対などによって、計画は白紙になり、現在に至っています。
播磨を中心とした周辺の空港
現在、姫路を中心として半径100㎞ぐらいの周辺には、定期便が就航する空港が8つあり、円を描くように空港が整備されています。
この周辺8空港の位置に、周辺の人口密度を示した図を、重ね合わせてみました。
※参照元:国土技術政策総合研究所資料、© OpenStreetMap contributors
赤い部分が人口が密集している地域で、青い線が主要な高速道路になります。(基準:2000年国勢調査結果)
見てみると、赤くなっている人口密度の高い地域には、■で示したとおり、空港が整備されているのがわかります。
しかし、真ん中に〇で示した、播磨エリアに関しては、人口密度が高く赤色になっているにもかかわらず、空港が整備されていません。
兵庫県南西部の播磨エリアは、人口が多いわりには空港がないので、地域住民や企業から空港の需要は大きいように思います。
地方に新空港を建設するメリット
当時の議論を読んでいると、空港建設によるメリットとして、先端産業の誘致や、国内移動による航空需要を主に想定しています。
その中では、現在のようにインバウンドの需要で、これほど航空便の需要がひっ迫するという議論はありませんでした。
36年前には、周辺の国々が豊かになって、日本に観光客として押し寄せるとは、想像もできなかったのかもしれません。
播磨空港まとめ
バブル経済と長いデフレを経て、日本を取り巻く環境は、次の時代に変わろうとしています。
現在の姫路市においても、当時の方々のように、今から40年後を見据えたインフラ投資の議論を、始める時が来ているような気がします。
※本記事は『神戸沖・播磨・但馬空港―新しい空の時代へ』を参照し執筆しました。(引用は本文より)
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