4月1日、菅官房長官から新元号「令和」が発表された。その後の世論調査をみても国民の評価は高く、国全体が新元号に沸いたのではないだろうか。
5月1日から令和の時代がはじまり、6月には大阪でG20が開催、来年には東京オリンピックと大きなイベントを控えている。イベント以外でも何か大きな変化があるのではと期待するのは、筆者だけであろうか。
日本が新しい時代の区切りを迎えるにあたり、筆者は新札発行の予感がしている。
戦後から現代までの紙幣の変遷
まず、新札発行の歴史を振り返ってみる。
紙幣(お札)というのは、正しくいうと日本銀行が発行する日本銀行券である。日本銀行が銀行券の安定供給と、信認を維持するための業務を行い、国立印刷局が製造している。
戦後に発行された紙幣は、発行順を表すためにABCの記号で区別されていて、現在の紙幣は戦後5番目の発行ということで「E券」と呼ばれている。
昭和21年にA券が発行。
昭和25年から昭和28年にかけてB券4種が順次発行。
昭和32年にC券5千円が発行され、その後順次4種を昭和44年まで発行。
昭和59年に3券種の同時改刷(かいさつ)によりD券が発行。このときに高額紙幣も含めて、紙幣の肖像がすべて一新された。
そして偽造防止の強化や、記番号一巡による色の変更などを経て、平成16年に3券種の同時改刷により現在のE券が発行された。
改刷(かいさつ)の時期と歴史
改刷はどのぐらいの間隔で行われているのか調べてみる。
A券からB券は4年、B券からC券は7年。C券までは発行開始から全券種を発行するまで、数年かけて順次発行されている。
C券からD券は27年。D券からは同時に3券種が改刷されるようになり、高額紙幣の肖像も聖徳太子から福沢諭吉に変更された。
D券からE券は20年。福沢諭吉はそのままに、3券種同時に改刷された。
そして現在ではE券が改刷されて15年が経ったところである。福沢諭吉の肖像画に変更されてから、35年が経過していることになる。
改刷のきっかけと理由
紙幣が改刷される際のきっかけは時代背景によって様々である。
A券の時代は戦後の混乱期で、粗悪な品質により偽造券が続発した。
C券の改刷の際は経済の高度成長にともなう高額紙幣の必要性が検討され、1万円券が発行されている。
C券は30年近く発行されたが、1980年代に入り、5千円券の大量偽造事件が発生するなどで、最新の偽造防止技術を採用したD券が発行されている。
E券発行の前にも紙幣の偽造事件が急増しており。このことがきっかけでホログラムなどの最新技術が採用された紙幣が発行された。
現在は偽札の摘発が増加している状況にはないが、改刷の過去の周期で考えると、C券の27年は比較的長かったので、おおむね20年が適当であると考えると、そろそろ改刷があっても良い時期ではないかといえる。
新札の経済効果も
発行された紙幣の中には、一般に市場で流通している紙幣とは別に、タンス預金など金庫に眠っている紙幣もある。
また、脱税で不正に蓄えた現金や、いわゆるアングラマネーといわれる現金などがあり、新札発行はこのような現金をあぶりだす効果があるといわれている。
その金額は様々な推計があるが、数兆円ともいわれており、日本経済におけるインパクトは小さくない。
金融機関で旧札から新札に交換する際に、マイナンバーの提示を義務付ければ、国が個人の持っている現金資産を把握することも可能である。
日本に大量に眠っている現金が、市場にでてくることで、一時的に大きな経済効果が期待できるといわれている。
デノミの意味とメリット
時代の変化に対応した、円の在り方について、長年議論があるのはデノミである。
デノミというのはデノミネーション(denomination)の略で、通貨の発行単位を変更することである。インフレなどにより通貨単位の桁数表示が大きくなるのを解消するために行われる。
日本で生活をしていると、気づかないかもしれないが、アメリカやヨーロッパで買い物したり、為替取引に携わったりすると、世界の先進国における通貨の中で、円の桁数が大きいのに違和感を持つことがある。
世界の主要通貨はドル、ユーロ、円、ポンドであるが、ドルを基軸に考えると、1:1.121:111.7:1.303という交換比率である(2019年4月7日時点)。
主要通貨のうち、円だけ交換比率が高いのは、単位が適当ではないからである。世界基準で考えると、円を1/100に切り下げて、新円にデノミすることが、適当な発行単位であるということがわかる。
海外におけるデノミの事例
経済規模が小さく発展途上の国では、経済政策の失敗によって急激なインフレーションが起こり、デノミを実施するという例はよくある話である。
2000年代に入ってからでも、トルコ、ルーマニア、ジンバブエ、朝鮮民主主義人民共和国、ベネズエラがデノミを実施している。
先進国においても、1960年にフランスにおいてフランが1/100のデノミを実施しており、その後フランは、1999年に1ユーロ=6.559フランの交換比率でユーロに統合され、現在に至っている。
このように、先進国においても交換比率の変更は実施されており、日本においても世界経済の主要国として、通貨単位を適正に変更することは、十分に検討の余地があるといえる。
新札発行はデノミの好機
現在使用されているE券への改刷から15年が経過している。平成の経済は「平たく成る」経済といわれており、デフレの影響で経済成長が他国よりおくれてしまった。
来年は東京オリンピックの開催で、たくさんの外国人が日本を訪れる。
日本が平成デフレから脱し、「令和」の時代を新たな気持ちで迎えるという意味で、円の改刷を行うことは、国民の総意にかなうのではないだろうか。
そして今こそが、改刷と同時に、デノミによって通貨単位の変更を実施し、円がドルやユーロとならんだ、世界標準の通貨として確立する、良いタイミングなのではないだろうか。
お札の肖像画はこの人に
最後に、改刷時における肖像画の変更について。
新たに発行されるF券の肖像画は、姫路の偉人、三上参次先生が適当ではないだろうかと思う。
三上参次先生は、明治期に国史の編纂事業をやり遂げ、「明治天皇御紀」を完成させた日本史学者である。夏目漱石や正岡子規と同時代を生きている。
新元号「令和」で万葉集が注目され、日本の伝統ある歴史があらためて注目されている。
肖像画に日本を代表する歴史学者を採用することで、明治時代に活躍された方の偉大さや、日本の正しい歴史が見直されるきっかけになるのではないだろうか。
令和の時代が、紙幣の改新とともに、明るく開けることを願うばかりである。
関連記事:前編 / 新元号「令和」に思う 新札発行の予感 前編 / 改刷
【参考資料】
国立印刷局HP 公式サイト
日本銀行HP 日本銀行券の改刷 2004年(PDF)
改刷で渋沢栄一に
【追記】2019年4月21日
この記事をアップして2日後に、新札の発行が現実になりました。
【追記】2020年3月26日
前編と後編の2記事に分けて書いていたものを、1つにまとめました。
タイトルの前半部分を変更しました。